サイト設計

弁護士の業務広告規程で、実際に問題になりやすい表現

公開日:2026年9月21日

CONCLUSION

指針が違反例として名指ししている表現がある。「専門」は控えるべきとされるが、言い換えるだけでは訴求力が落ちる。ラベルの代わりに出版・登壇・取扱件数という事実を出す。2026年7月からは広告業者との契約書と入出金記録の3年保存が義務化されており、成果報酬型なら報酬発生条件の資料も対象になる。

集客を強めようとして文言を足していくと、業務広告規程に近づいていきます。しかも、問題になりやすい表現ほど、他事務所のサイトで見かけるため、危ないという自覚が持ちにくくなっています。

日弁連の業務広告に関する指針(平成24年3月15日理事会議決、直近改正は令和8年2月19日)には、違反例が具体的な文言つきで列挙されています。 抽象的な基準ではなく、実際の表現が挙がっています。

以下は、そのうちウェブサイトで見かける頻度が高いものです。

当社は法律事務所ではないため、個別の表現が規程に触れるかどうかの判断はできません。ここに書くのは、指針に挙がっている例と、サイトを点検する順序です。最終的な確認は所属弁護士会にお願いします。

1. 「専門」

最も多い論点です。

指針は、専門性の判断に客観性が担保されないまま「専門家」「専門分野」と表示することは誤導のおそれがあり、表示を控えるのが望ましいとしています。「スペシャリスト」「プロ」「エキスパート」も同様に扱われます。

一方で、「得意分野」は差し支えないとされています。主観的評価にすぎないことが表現から明らかで、読み手もそう受け取るためです。

同じことを言うのに、扱いが分かれる

控えるべきとされる

  • 相続専門
  • 交通事故のスペシャリスト
  • 離婚問題のプロフェッショナル
  • 債務整理のエキスパート

指針が差し支えないとしている

  • 得意分野(主観的評価と分かるため)
  • 取扱い分野/取扱い業務(専門等の評価を伴わないため)
  • 積極的に取り組んでいる分野/関心のある分野(経験が豊富でない分野の場合に望ましいとされる例)

言い換えでは弱くなる

正直に書くと、「専門」は集客上かなり強い言葉です。 相談者が実際に検索する語であり、依頼先を選ぶ理由にもなります。「得意分野」に置き換えれば、その分の訴求力は落ちます。ここを「変えても影響はない」と言うのは誠実ではありません。

考え方を変えてください。「専門」という一語で伝えていたのは、経験が豊富だという評価です。ラベルが使えないなら、評価そのものではなく、評価の根拠を出します。

  • その分野での出版実績 — 書名と出版社を書けば、事実として伝わります
  • その分野での講演・セミナー登壇 — 主催者と時期を添えます
  • その分野の取扱件数 — ただし数え方に注意が必要です(後述)
  • 執筆した記事や解説 — 自事務所のサイトに分野ごとの記事を積むこと自体が根拠になります

これらは事実なので、そのまま書けます。 そして「相続専門」の一語より、相談者にとっては判断材料として強い。ラベルは誰でも名乗れますが、出版と登壇は名乗れないからです。

ただし、経歴を書くときの制約が一つあります。指針は、役職や前履歴を表示して、それによって特に有利な解決が期待できることを示唆する表示を違反例としています(「元特捜部検事 検察庁に対する押しが違います」など)。実績は事実として並べ、結果を約束する書き方にしないでください。

なお「精通している」という表現について、指針が名指ししているのは専門・専門分野・スペシャリスト・プロ・エキスパートです。「精通」は列挙されていませんが、明示的に認められてもいません。 使うなら所属弁護士会に確認してください。

2. 「着手金0円」

指針は、着手金0円と記載しながら手数料や管理料などの名目で金銭を収受する場合を、誤導又は誤認のおそれのある広告の例として挙げています。別途収受する旨の明瞭な表示があれば除かれます。

同様に「着手金○万円〜」も、実際には表示額を著しく超える着手金を収受している場合が違反例とされています。

つまり問題は0円と書くこと自体ではなく、総額が読めないことです。

着手金0円              ← 他に費用があるなら、この1行だけでは足りない
着手金0円(別途、事務手数料◯円と実費をいただきます)  ← 明示されている

費用の載せ方でも書いたとおり、下限だけを単独で置かないのが原則です。規程の観点からも同じ結論になります。

「割安な報酬で事件を受けます」「業界最低水準の弁護士報酬」も、曖昧または不正確な表現の例として挙がっています。

3. 「24時間365日対応」「全国対応」

体制が伴っているかどうかで判断が分かれます。

指針は、弁護士が1人しかいないなど相談体制が整っていないのに常時直接対応できるかのように記載することを、誤認のおそれのある広告の例としています。「全国対応」も、債務整理事件について受任体制が整っていないのに受任できるかのような記載が例に挙がっています。

電話が留守番電話やコールセンターにつながる状態で「24時間対応」と書いているなら、書き方を変えてください。

24時間365日対応              ← 体制がなければ違反例
24時間受付(お電話は翌営業日に折り返します)  ← 実態どおり

4. 解決事例と「お客様の声」

指針は、架空の事例を記載することに加えて、解決できた場合であっても、表示されたとおりの解決ができなかった事例を脚色して記載することを虚偽の表示としています。

「お客様の声」についても、実在の依頼者が関与していない文章を記載することが挙がっています。制作会社が用意した例文をそのまま載せている場合、ここに当たります。

法律相談実績の件数も、申込みはあったが実際に回答していないもの、弁護士が直接回答していないものを含めて記載することが虚偽の表示とされています。

なお、解決事例そのものの掲載可否は守秘義務の問題でもあります。判断の順序は解決事例の書き方に整理しました。

5. 期待を抱かせる表現

誇大又は過度な期待を抱かせる広告の例として、指針は次を挙げています。

  • 「当事務所ではどんな事件でも解決してみせます。」
  • 「たちどころに解決します。」
  • 他の事件を例に挙げ、同じ結果が出ると思わせる表現(「交通事故で1億3,000万円を獲得しています。あなたも可能です。」)

また、訴訟の勝訴率の表示は規程で明示的に禁じられており、誤導又は誤認のおそれのある広告に該当するとされています。

6. 不安をあおる表現

困惑させ、又は過度な不安をあおる広告の例です。

  • 「今すぐ請求しないとあなたの過払金は失われます。」
  • 自己破産への不安をあおって任意整理の依頼を勧誘する表現

広告文で緊急性を出そうとすると、この領域に入りやすくなります。急がせるのではなく、放置した場合に何が起きるかを事実として書くほうが安全で、説得力も落ちません。

7. 他事務所との比較

特定の事務所と比較した広告は規程で禁じられています。「○○事務所より豊富なスタッフ」が例として挙がっています。

事務所名を出していなくても、全体の表現から特定の事務所を指していると認められるときは同様とされています。地域に同種の事務所が数えるほどしかない場合、注意が要ります。

一般的な傾向として書くなら差し支えありません。当社が記事で「よくある進め方」という言い方をしているのも同じ理由です。

8. 「借金減額診断」

近年の改正で明文化された項目です。

指針は、借入金額や返済の有無を入力させるだけでは事件の処理方針等が判断できないにもかかわらず、判断できるかのように誤信させる表現として「借金減額診断」「借金減額シミュレーター」を名指ししています。

「どのように入力しても減額の可能性があると表示される」形は、誇大広告の例にも挙がっています。

シミュレーターを置く場合、出てくるのが確定的な見通しではないことが明らかな作りにしてください。

2026年の改正で変わったこと

直近の改正は令和8年2月19日に議決され、同年4月1日から施行されています。あわせて、前年の改正のうち記録の保存に関する部分が同年7月1日から施行されました。どちらもすでに効力があります。

2026年4月1日から

債務整理まわりの表現が、名指しで追加されました。

  • 「借金減額診断」「借金減額シミュレーター」、詐欺被害金の返金可能性に関する「無料診断」が、誤認のおそれのある広告の例として新設されました。借入金額や返済の有無を入力させるだけでは処理方針を判断できないのに、判断できるかのように誤信させる、という理由です
  • 自己破産への不安をあおって任意整理などを勧誘する広告が新設されました。自由財産や同時廃止を説明せずに「破産すると財産を手放すことになります」と書く、免責不許可事由や裁量免責に触れずに「ギャンブルが原因の借金は免責されません」と断定する、といった例が挙がっています
  • 国際ロマンス詐欺や投資詐欺について、高額回収できた事例を殊更に紹介する表現、過払金について**「時効でも返金されることがあります」**と期待を抱かせる表現が、誇大広告の例に加わりました

媒体の扱いも更新されました。 動画サイトとSNSが広告媒体として明記され、SNSのメッセージ機能による広告についての項目も置かれています。

2026年7月1日から(記録の保存)

こちらのほうが、多くの事務所に影響します。

広告の記録を保存する義務(規程第11条)の対象に、次の2つが加わりました。保存期間は広告が終了したときから3年間です。

  • 広告業者との契約書その他、契約の内容を証する書面または電磁的記録
  • その契約に係る入出金に関する記録

指針は、該当するものを具体的に挙げています。

3年間保存する対象(2026年7月1日以降)

契約の内容を示すもの

  • 広告契約書、業務委託契約書、代理店契約書、個別契約書
  • 注文書、発注書、見積書、請書
  • 広告報酬計算書、広告報酬通知、請求書
  • 契約内容についてやり取りしたメール、SMS、SNSのメッセージ

入出金を示すもの

  • 通帳、総勘定元帳その他の帳簿
  • 入出金についてやり取りしたメール等
  • 広告業者と直接の入出金がない場合でも、その契約や合意に基づく入出金なら対象

契約の形態や名称は問われません。請負でも準委任でも取次ぎでも対象になります。

そしてもう一点、成果報酬型の広告を使っている事務所に直接関わる項目があります。

指針は、アフィリエイト(成果報酬型のインターネット広告)やSEO対策のために第三者が管理するウェブサイトを利用する場合、その広告配信方針や報酬発生の条件等を記載した資料を保存するとしています。広告業者がさらに第三者へ再委託する場合も同様です。

つまり、「どういう条件で報酬が発生するのか」を書面で持っていない状態は、保存義務を果たせない状態ということになります。成果報酬型の契約そのものの是非は別の記事に整理しましたが、規程の観点からも、条件が書面化されていない契約は避けるべきです。

なお、この改正は遡及しません。2026年7月1日より前に終了した広告と、同日より前の入出金には適用されません。

点検の順序

一度に全部を見直す必要はありません。検索して当たりをつけるところから始めてください。

自事務所のサイトを点検する
  1. 1
    サイト内を語で検索する専門 / スペシャリスト / プロ / 0円 / 無料 / 24時間 / 全国対応 / 必ず / 確実 / No.1
  2. 2
    体制が伴っているかを確かめる書いてあるとおりの対応が実際にできるか。できないなら文言を実態に合わせる
  3. 3
    金額表示の総額が読めるか確かめる下限だけの表示になっていないか。実費と手数料が書かれているか
  4. 4
    事例と「お客様の声」の出どころを確かめる制作会社の例文が残っていないか。同意の記録があるか
  5. 5
    判断がつかないものは弁護士会に確認する自己判断で残さない。指針に例示がない表現ほど確認する価値がある

広告文とランディングページも忘れずに点検してください。 サイト本体は整っているのに、広告の見出しだけ古い文言のまま残っていることがあります。規程はウェブサイトだけでなく業務広告全般に及びます。

集客とのバランス

ここまで読んで、書けることが少ないと感じられたかもしれません。実際、強い言葉を落とせば、クリック率も問い合わせ数も下がることがあります。 そこは認めたうえで進める話です。

ただし、下がるのは主に問い合わせの入口の数字です。「必ず」「たちどころに」で集めた相談は、費用や見通しを説明した段階で離脱します。 面談まで進んで受任に至らない件が増えるだけで、受任は増えません。

だからこそ、問い合わせ数ではなく受任で見る必要があります。強い言葉を落とした結果として問い合わせが2割減っても、受任が変わらないなら、減ったのは対応時間だけです。

そして「専門」のように、落とすと実際に痛い言葉については、言い換えで済ませず、根拠となる事実を用意してください。 出版、登壇、取扱件数、書いた記事。そちらのほうが時間はかかりますが、他事務所が真似できません。

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