サイト設計
解決事例の書き方(守秘義務と広告規程の範囲で)
公開日:2026年9月21日
CONCLUSION
掲載可否は「個人が特定できるか」ではなく「依頼者の同意があるか」で決まる。匿名化は守秘義務の免除ではない。同意は委任契約書の条項として受任時に取っておく。良かった事例だけを選ばず原則全件書く。件数は多いほど有利で、1分野あたり最低3本。
解決事例は、法律事務所のサイトで最も読まれるページです。相談者は「自分と同じ状況の人がどうなったか」を探しています。
同時に、最も事故が起きやすいページでもあります。公開してから問題に気づいても、検索結果やアーカイブに残ります。
「特定できなければよい」ではない
最初に整理しておきたい点があります。
匿名化は、守秘義務を免除する手続きではありません。
氏名を伏せ、地域をぼかし、金額を丸める。これらは第三者から個人を特定されないための措置です。しかし守秘義務が守っているのは「個人が誰か」ではなく、業務上知り得た情報そのものです。
依頼者本人から見れば、匿名化された事例であっても、自分の事件のことだと分かります。分かる以上、それは自分の情報が公開されたということです。
したがって判断の基準は一つです。
誤解されている基準
- 個人が特定できなければよい
- 氏名を伏せればよい
- 金額を丸めればよい
- 複数事例を混ぜればよい
実際の基準
- 依頼者の同意があるか
- 同意の範囲に収まっているか
- 同意は書面で残っているか
- 表示が誤認を生まないか
匿名化が不要という意味ではありません。同意を得たうえで、なお匿名化する。同意と匿名化は、目的が違う別々の手当てです。
掲載までの手順
- 1委任契約書に同意の条項を入れておく受任の時点で、匿名化のうえ掲載する旨を条項として入れる。ここが本筋
- 2事件の経過を残す掲載するかどうかに関わらず全件。後から思い出して書くことはできない
- 3精算と同時に確認する契約書で同意済みでも、公開前にもう一度声をかける。撤回の機会を渡す
- 4原稿を依頼者に確認してもらう同意した範囲と実際の原稿がずれていないか。ここで双方の認識が揃う
- 5誤認を生む表現を落とす断定、優位性の主張、成功率。最後に必ず通す
最大の分かれ目は1番です。 事件が終わってから「掲載させてください」と切り出すのは、事務所にとっても依頼者にとっても気まずい場面になります。委任契約書にあらかじめ条項を置いておけば、その場面自体が発生しません。
すでに受任している案件については、精算のタイミングで求めることになります。事件の途中で求めると、断りにくい状況での同意になり、後で問題になります。
良かった事例だけを選ばない
もう一つ、運用上の原則があります。掲載する事例は、原則としてすべてです。
結果が良かったものだけを選ぶと、二つの問題が起きます。
一つは、誤認を生むこと。 成功例だけが並ぶページは、この事務所に頼めばこうなる、という期待を与えます。業務広告規程が避けるべきとしているのは、まさにこの種の表示です。
もう一つは、続かないこと。 「書くに値するか」を毎回判断していると、その判断自体が面倒になって止まります。全件書くと決めておけば、判断は不要になります。
結果が思わしくなかった事例も、そこに至った事情と、事務所が何をしたかを書けば、読む価値のある記録になります。相談者が知りたいのは勝率ではなく、自分の状況で何が起こるかです。
同意書に入れる項目
同意を取る際、次の項目を明記しておくと後で揉めません。
- 公開する媒体 — 自事務所サイト、パンフレット、SNSなど。範囲を限定する
- 公開する内容 — 分野、争点、結果、金額を載せるかどうか
- 匿名化の方法 — 氏名、地域、年齢、職業をどう処理するか
- 公開期間と撤回 — 依頼者からの申し出でいつでも削除する旨
- 同意日と署名
このうち撤回の条項は必ず入れてください。 依頼者の状況は変わります。後から削除を求められたときに、争いにしないための備えです。
書ける範囲
同意が得られた場合でも、書き方に制約があります。業務広告規程では、誤認を生じさせる表示が禁じられています。
避けるべき表現
- 「必ず」「確実に」「100%」
- 「日本一」「地域No.1」(客観的な根拠と出典がない場合)
- 「他事務所では無理と言われた案件を解決」
- 勝訴率や解決率の数値(算定根拠を示せない場合)
代わりに書けること
- 事実として起きたこと(請求額、和解額、期間)
- 事務所として行った具体的な作業
- その事例に固有の事情と、それがどう結果に影響したか
「結果は事案によって異なります」という注記を必ず添えてください。 これは形式的な免責文ではなく、誤認を防ぐための実質的な記載です。
なお、当社は法律事務所ではないため、個別の表現が規程に触れるかどうかの判断はできません。最終的な確認は、所属弁護士会の指針に照らして行ってください。
同意が取れない場合
多くの事務所で、これが現実です。依頼者との関係上、掲載の話を切り出しにくいこともあります。
その場合、事例として書くのをあきらめて、類型として書いてください。
具体的な事件を指さず、その分野で一般的に起きることを書く方法です。
- 「遺産分割で、他の相続人と連絡が取れない場合に取る手続き」
- 「交通事故で、提示された示談金が低いと感じたときに確認する3点」
- 「相手方に代理人がついた段階で、本人交渉を続けるべきでない理由」
これらは特定の依頼者の情報を含まないため、同意なしで書けます。 そして相談者にとっての有用性は、解決事例とほとんど変わりません。読者が知りたいのは「自分の場合どうなるか」であって、他人の事件の顛末ではないからです。
公刊された裁判例をもとに書く方法もあります。すでに公開されている情報なので守秘義務の問題は生じません。ただし、自事務所が担当した事件でないことは明示してください。
件数は多いほどよい
1分野あたり最低3本。そこから先は、多いほど有利です。
これは分野ページとは逆の性質です。分野ページは1枚にまとめるべきで、増やすと薄いページが増えるだけでした。解決事例は違います。理由が二つあります。
一つは、件数そのものが実績の証明になること。 その分野を数多く扱っていることを示せる場所は、事務所のサイトにここしかありません。50本並んでいる事務所と3本の事務所では、同じ内容でも伝わるものが違います。
もう一つは、相談者が自分に近い事例を見つけられる確率が上がること。 全部を読む人はいません。しかし、自分と同じ状況の1本に当たれば、それが問い合わせの理由になります。数は、その1本に当たる確率です。
ただし、中身が薄くてよいという意味ではありません。全件書くと決めて、1本ずつ事実を書く。 結果として数が積み上がる、という順序です。網羅のために作文すると、誰の役にも立たないページが増えます。
続けるための仕組み
全件書くと決めても、実務の合間に書き続けるのは負担です。仕組みで解くほうが確実です。
事件の経過記録を、掲載の有無に関わらず全件残してください。 掲載を決めてから記録を遡るのは不可能です。逆に記録さえあれば、事例の原稿は後からいつでも起こせます。
記録が溜まっているなら、個人情報をマスキングしたうえで生成AIに読ませて、原稿の下書きを作る方法があります。事実の並べ替えと構成は機械のほうが速く、弁護士は事実確認と表現の点検に集中できます。
ただし、外部のAIサービスに事件記録を渡すことの可否は、事務所ごとの判断です。 入力したデータが学習に使われない契約になっているか、保存期間はどうか、を確認したうえで決めてください。判断がつかないなら、この方法は使わないでください。
すでに掲載している場合
同意を取らずに掲載している事例がある場合、次の順で確認してください。
- 同意の記録があるか — 口頭のみなら、記録として残っていないのと同じです
- 同意の範囲を超えていないか — パンフレット用に得た同意でサイトに載せていないか
- 断定的な表現が残っていないか — 「必ず」「確実に」を検索してください
記録がない事例は、削除するか、類型として書き直してください。 掲載を続けたい場合は、いまからでも依頼者に連絡して同意を得る方法があります。
公開済みのものを削除する場合、検索エンジンにキャッシュが残ります。削除後に Search Console から削除をリクエストしてください。