広告運用

法律事務所の広告費は、月いくらから意味があるか

公開日:2026年9月17日

CONCLUSION

広告費の下限は「受任1件あたりにかかる広告費 × 判断に必要な件数」で決まる。この額に届かない予算で始めると、数字が動いても偶然と区別できず、続けるか止めるかの判断ができないまま費用だけが出ていく。

「月いくらから広告を出せばいいですか」という質問をよくいただきます。相場を答えることはできますが、その数字はあまり役に立ちません。同じ月額でも、分野と地域によって取れる件数がまったく違うからです。

答えるべきは相場ではなく、その事務所にとって判断ができる最小額はいくらかです。

少なすぎる予算で起きること

月に数万円で検索広告を始めた事務所が、3か月後に「問い合わせが2件あった」という状態で相談に来られることがあります。このとき困るのは、成果が悪いことではありません。2件では、良いのか悪いのかが判断できないことです。

2件が3件になっても、それが改善なのか、たまたま月をまたいで1件増えただけなのかは分かりません。キーワードを変えても、広告文を直しても、結果の差が誤差に埋もれます。改善する手がかりがないまま、毎月費用だけが出ていきます。

配信そのものにも影響します。予算が日ごとの上限に張り付くと、広告は午前中で止まります。相談者が検索する時間帯に出ていない、ということが起こります。また、検索広告の自動入札は、一定量の成果データが貯まってから精度が上がる仕組みです。件数が少なすぎると、この学習が終わりません。

つまり少額の広告は、単に成果が小さいのではなく、判断も改善もできない状態を作ります。そしてこの状態は、時間が経っても自然には解消しません。3か月続ければ件数は3倍になりますが、その間に季節要因も競合の出稿状況も変わっているため、月をまたいで足し合わせた数字の精度は上がりません。

下限の計算

順番に逆算します。

1. 受任1件あたりの広告費を出す。 クリック単価 ÷(クリックから相談に至る率 × 相談から受任に至る率)で求まります。分野と地域で大きく変わる数字です。相続のクリック単価を1とすると、債務整理は2倍、交通事故は8倍ほどになります。同じ月額でも、分野が違えば買える件数は1桁変わります。自事務所の過去データがない場合は、まずGoogle広告のキーワードプランナーで概算を取ってください。

2. 判断に必要な件数を決める。 運用の良し悪しを数字で判断するには、月あたり最低でも5件の面談予約が必要です。これを下回ると、前章のとおり誤差と区別がつきません。

3. 掛ける。 受任1件あたりの広告費 × 判断に必要な件数。これが月額の下限です。

月額の下限を出す3ステップ
  1. 1
    受任1件あたりの広告費を出すクリック単価 ÷(クリック→相談の率 × 相談→受任の率)。分野と地域で大きく変わる
  2. 2
    判断に必要な件数を決める月あたり最低5件の面談予約。これを下回ると誤差と区別がつかない
  3. 3
    掛ける受任1件あたりの広告費 × 判断に必要な件数 = 月額の下限

この額に届かないなら、検索広告は今は選択肢になりません。ポータルサイトへの掲載や、既存の紹介経路を厚くするほうが先です。届かない額で始めることが、最も費用を無駄にする選択です。

分野が複数ある場合

取扱分野が複数ある事務所は、下限の計算を分野ごとに行ってください。事務所全体の広告費を1つの数字として決めると、ほぼ確実に配分を誤ります。

分野をまたいで1つの予算にすると、クリック単価の安い分野に配信が寄ります。安い分野は、たいてい相談から受任に至る率も低い分野です。結果として、クリック数は増えたのに受任は増えないという、最も判断しにくい状態になります。

分野ごとに下限を計算すると、多くの事務所で「全分野を同時には出せない」という結論になります。それが正しい結論です。下限に届く分野を1つだけ選び、そこに集中してください。2つの分野に半分ずつ配ると、どちらも判断できない額になります。

選ぶ基準は、検索数の多さではなく平均受任額です。平均受任額が高い分野ほど、受任1件あたりにかけられる広告費の許容幅が広く、下限を満たしやすくなります。

上限は別の理由で決まる

下限が「判断できるか」で決まるのに対し、上限は二つの制約で決まります。

一つは採算です。 判断の基準は、受任1件あたりの広告費が平均受任額の何割にあたるか。この一つの比率で見ます。

まず、どこで利益がゼロになるかを出します。平均受任額150万円の分野で、人件費が売上の4割で60万円、その他の原価が2割で30万円。残りは60万円です。この60万円を全額広告に使うと、利益はちょうどゼロになります。平均受任額の4割が損益分岐点です。

ただし、これは「超えたら赤字」という外側の線であって、目指す水準ではありません。実際に見るべき目安は三段階です。

受任1件あたりの広告費が、平均受任額に占める割合
〜2割
3割
4割
  • 〜2割健全。営業利益が2〜3割残る
  • 3割我慢できる上限。利益は1割まで落ちる
  • 4割損益分岐点。利益はゼロ

通常は1〜2割に収めてください。 士業の経営指標でも、広告宣伝費は売上の1割程度が目安とされています。3割を許容するのは、新しい分野を立ち上げる時期など、期間を区切れる場合に限ります。

人件費率と原価率は事務所によって違いますから、この4割はそのまま使える数字ではありません。自事務所の直近の決算から同じ引き算をして、自分の損益分岐点を出したうえで、その半分以下を目標にしてください。

なお、予算を増やすほど、検索の中心から外れた層まで配信が広がるため、受任1件あたりの広告費は上がっていきます。増やせば増やすだけ取れる、という関係にはなりません。

もう一つは処理能力です。 広告は相談を増やしますが、対応するのは事務所の人です。弁護士1人あたり月に受けられる新規相談には限界があり、超えると折り返しが遅れ、面談が先送りになり、結果として受任率が下がります。広告費を増やす前に、増えた分を誰が受けるのかを決めてください。

紹介がある事務所は、比率が変わる

ここで一つ注意があります。「受任1件あたりの広告費 ÷ 平均受任額」と「広告費 ÷ 事務所全体の売上」は、同じ数字ではありません。

紹介や既存の相談者からの受任がある事務所では、広告費は広告経由の案件だけが負担しています。売上の半分が紹介で成り立っているなら、事務所全体で見た広告費が売上の1割でも、広告経由の案件だけを取り出せば2割かかっている計算になります。

つまり、広告以外の経路が太い事務所ほど、広告経由の案件に許容できる比率は高くなります。 逆に、受任のほぼ全てを広告に頼っている事務所は、上の表の数字をそのまま守る必要があります。

自事務所がどちらかを知るには、受任の経路を記録するしかありません。記録がなければ、この判断はできません。

判断の基準

これから始める事務所は、次の順で確認してください。

  1. 下限の額を計算する。 上記の3ステップで出す。概算で構いません
  2. その額を、判断がつくまで続けられるか確認する。 目安は6か月分です。1か月で結論は出ません。最初の1〜2か月は設定の粗さが残り、数字が実力より悪く出ます。そこを差し引いて判断できる月が手元に残るのが、6か月です
  3. 止める条件を先に決める。 「受任1件あたりの広告費が◯円を超えたら止める」を、始める前に決めておきます。始めてから決めると、使った額が惜しくなって判断が鈍ります

すでに出している事務所は、直近6か月の受任単価と平均受任額を月ごとに並べてください。この2つの数字が出せないなら、予算の議論より先に、経路の記録を始めることをお勧めします。記録がなければ、いくらが適正かは誰にも計算できません。

額そのものより先に決めること

広告費の額は、事務所の規模ではなく、扱う分野の単価構造で決まります。平均受任額が高い分野なら、月額が大きくても成立します。低い分野なら、額を絞っても成立しません。

ですから、他の事務所がいくら使っているかは判断材料になりません。自事務所の平均受任額と、受任1件あたりにかかる広告費。この2つだけで下限も上限も決まります。

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